微分要素の周波数特性とボード線図。イメージと使い方を解説!

周波数応答とボード線図

このページでは、微分要素(微分器)の周波数特性とボード線図について、解説します。また、微分要素を用いる際の実用上のポイントついても解説します。

このページのまとめ
  • 微分要素は「信号の低周波成分は減衰させ、高周波成分は増幅させる」という性質を持つ
  • 厳密な実現が不可能なので、現実には「微分にほぼ等しい要素」で代用する
  • システムの過渡特性を改善するために付加されることが多い
  • 高周波ノイズを増幅してしまうことに注意が必要
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微分要素の基本

本題に入る前に、基礎をおさらいしておきましょう。微分要素(微分器)は、$s$で表されるシンプルな要素です。

これ単体で1つのシステムを構成することはなく、システムの一部として登場します。(理由については後述します)

微分要素(微分器)を内部に持つシステムのブロック線図例

ただの$s$が微分要素と呼ばれる理由について、確認していきましょう。$t$領域(時間領域)での、ある信号$f(t)$の時間微分をラプラス変換すると、次のようになります。

$$\dot{f}(t) \ \xrightarrow{\large ラプラス変換} \ sF(s)-f(0)$$

古典制御では$f(0)=0$(時刻0で信号が0)を前提とする場合がほとんどなので、これを適用しましょう。

$$\dot{f}(t)\ \xrightarrow{\large ラプラス変換} \ sF(s)$$

$s$領域では、微分操作が$s$をかけるだけになりましたね。このことから、信号に微分要素を作用させると、その時間微分が得られることが分かります。

信号に微分要素を作用させると、その時間微分が出力されることを示したブロック線図
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微分要素のボード線図

それでは、微分要素のボード線図を確認していきましょう。

微分要素(微分器)のボード線図

まずゲイン線図に注目すると、角周波数が10倍になるごとに(つまり1decadeごとに)ゲインが20dBずつ大きくなる直線になっていますね。つまり、信号の低周波成分は減衰させ、高周波成分は増幅させる特性が読み取れます。角周波数が1[rad/s]のときに、増幅・減衰の境目となる0dB(1倍)になることも覚えておきましょう。

一方の位相線図は、角周波数によらず常に90°ですね。つまり、周波数によらずどの信号も90°進むことが読み取れます。

全体的に、積分要素のボード線図を0を境に上下にひっくり返した形をしていることもポイントです。数式上でも、積分要素をひっくり返すと微分要素になるため、ボード線図の「ひっくり返しの法則」が成り立っているというわけですね。

$$積分要素:\frac{1}{s}\quad \xrightarrow{\large ひっくり返すと}\quad 微分要素:s$$

微分要素のボード線図は、積分要素のボード線図を0を境に上下にひっくり返した形をしている

ボード線図の具体例と直感的イメージ

ここからは、上で読み取ったボード線図の意味を具体例で確認することで、直感的イメージを深めていきましょう。

下図のように、シンプルな微分要素$G(s)=s$に対し、様々な角周波数$\omega$の入力信号$u(t)=\sin (\omega t)$を与え、それに対する周波数応答$y(t)$を確認していきます。

微分要素に様々な周波数の信号を入力すると、出力はどうなる?
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低周波特性のイメージ

まず、そこそこ遅い入力信号として0.5[rad/s]のsin波を与えた場合について考えます。この入力信号に対する特性は、ボード線図の0.5[rad/s]の部分を読み取れば分かりますね。

微分要素の低周波特性は、ボード線図のココを見ればよい

このときのゲインの値は-6dB、位相の値は90°です。入出力信号の具体的な波形を見てみましょう。

低周波入力に対する、微分要素(微分器)の出力波形

まず信号の振幅に注目すると、入力信号が減衰されて出力されていることが見て取れます。その倍率は-6dB(約1/2倍)であり、ゲイン線図の内容と一致していますね。

一方で位相に注目すると、入力信号が90°(つまりsin波$\frac{1}{4}$個分)進んで出力されていることが見て取れます。信号のピークの位置を比べると分かりやすいですね。これも位相線図の内容と一致しています。

また、信号波形から、出力信号が確かに入力信号の微分値になっていることも見て取れます。

出力信号は、入力信号の微分値である。入力のsin波が最大/最小のとき傾きが0になるので、出力も0になる

入力信号の周波数が低いので信号の変化スピードも遅くなり、微分値である出力信号が入力より小さくなっていることが直感的にも分かります。この作用により、入力信号が減衰しているような挙動が現れるというわけですね。

中周波特性のイメージ

続いて、入力信号として1[rad/s]のsin波を与えた場合について考えましょう。この入力信号に対する特性は、ボード線図の1[rad/s]の部分を読み取れば分かります。

微分要素の中周波特性は、ボード線図のココを見ればよい

このときのゲインの値は0dB、位相の値は90°です。入出力信号の具体的な波形を見てみましょう。

中周波入力に対する、微分要素(微分器)の出力波形

まず、信号の振幅が変わっていないことが見て取れますね。つまり増幅率0dB(1倍)であり、ゲイン線図の内容と一致していることが分かります。

信号の位相を見ると、入力信号が90°(つまりsin波$\frac{1}{4}$個分)進んで出力されていることが見て取れます。これも位相線図に一致しますね。

微分関係に着目すると、この周波数で入力のsin波の最大傾きがちょうど1になるため、入出力信号の振幅が一致していると解釈できます。

入力のsin波の最大傾きがちょうど1になるため、入出力信号の振幅が一致している
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高周波特性のイメージ

最後に、そこそこ速い入力信号として2[rad/s]のsin波を与えた場合について考えましょう。この入力信号に対する特性は、ボード線図の2[rad/s]の部分を読み取れば分かります。

微分要素の高周波特性は、ボード線図のココを見ればよい

このときのゲインの値は6dB、位相の値は90°です。入出力信号の具体的な波形を見てみましょう。

高周波入力に対する、微分要素(微分器)の出力波形

信号の振幅に注目すると、今度は入力信号が大きくなって出力されていることが分かりますね。その倍率は6dB(約2倍)であり、ゲイン線図の値と一致しています。

位相は変わらず90°進んでおり、しっかり位相線図に一致しています。

微分関係に着目すると、入力信号の周波数が高いのでsin波の変化スピードが速く、微分値である出力信号が入力より大きくなっていることが直感的に理解できます。

入力信号の周波数が高いのでsin波の変化スピードが速く、微分値である出力信号が入力より大きくなっている

実用上のポイントと使い方

厳密な微分要素は実現不可能

微分要素を使う際にまず知っておくべきことは、微分要素はプロパーなシステムではないので、現実世界で厳密な実現が不可能である点です。

この理由を見ていきましょう。微分操作の厳密な定義は次式で得られます。

$$\dot{f}(t) = \lim _{\Delta t \rightarrow 0} \frac{f(t+\Delta t) – f(t)}{\Delta t}$$

極限が付いているとはいえ、\(f(t+\Delta t)\)という未来の時刻の情報が必要となるのがポイントです。当然未来の情報を得る方法はありませんので、「厳密な」時間微分は実現不可能だというわけです。

よって実用シーンでは「厳密ではないけどほぼ微分な要素」で代用することになります。電気信号を微分する微分回路や、微分をプログラムで近似的に計算する数値微分がその代表でしょう。これらには必ず誤差が含まれるので「厳密な微分」ではないですが、実用上はそれで十分な場合がほとんどです。

以上のように、現実に「厳密な微分要素」をそのまま使うことはありません。とはいえ「ほぼ微分な要素」を使う際は「厳密な微分要素」の性質をベースに色々考慮することになりますので、「厳密な微分要素」の性質はしっかり抑えておきましょう。

※このページの下の方で、「ほぼ微分要素」として使われる伝達関数の例が出てきます

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微分要素と過渡特性

それでは、微分要素の主な用途について見ていきましょう。微分要素は、既存のシステムの過渡特性を改善するために付加されることが多いです。

既存の制御器に微分要素を不可したブロック線図
微分要素の付加によって過渡特性が改善している例

この理由を安定余裕の観点から詳しく見ていきましょう。(システムの安定余裕については追って解説記事を書く予定です)

安定余裕に関してまず着目すべきは、位相余裕です。位相余裕は「開ループシステムのボード線図において、ゲイン交差周波数での位相が-180°より進めば進むほど、システムの安定性が増す」というものでした。よってゲイン交差周波数での位相はなるべく-180°より上にあることが望ましいと言えます。

ボード線図における位相余裕。ゲイン交差周波数での位相は-180°よりなるべく上にすべき

対して微分要素は、全周波数で位相を90°進める特性を持っていました。

微分要素は全周波数で位相を90°進めることを示した位相線図

よって、微分要素を既存のシステムに1つ付加するたび位相が90°ずつ進み、システムの位相余裕が増える(安定性が増す)ことになります。

微分要素を既存のシステムに1つ付加するたび位相が90°ずつ進み、システムの位相余裕が増える(安定性が増す)ことを示したボード線図

一般的に、システムの安定性が増すと振動的な挙動が抑制されたり、収束が速くなったりします。このことから、微分要素は過渡特性の改善に有効といえるわけです。

なお、微分要素を付加することでゲイン線図も変化することには注意しておきましょう。微分要素のゲイン線図は右肩上がりの直線でした。よってこれを既存のシステムに付加すると、ちょうどゲイン線図を反時計回りに回転させるような作用をすることになります。

微分要素がゲイン線図を反時計回りに回転させる作用を持つことを示したゲイン線図

ほとんどの場合、これによってシステムのゲイン交差周波数(位相余裕を考えるべき周波数)がずれてしまうので、それも考慮に入れて安定余裕を評価する必要があります。

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微分要素とノイズ

一方で、微分要素は高周波ノイズを増幅させる作用があるので、使う場合には注意が必要です。

ゲイン線図より、微分要素は入力信号の周波数が高くなればなるほど、それを大きく増幅させて出力することが分かります。

微分要素は、入力信号の周波数が高くなればなるほど、それを大きく増幅させて出力することを示したゲイン線図

ここでの問題は、高周波信号のほとんどはノイズであることです。例えば、微分要素に超高周波のノイズ信号がごく少量入っただけでも、それが超増幅されて出力されてしまうことになります。

少量の高周波ノイズ信号が、微分要素によって超増幅される例

ノイズを完全に0にできればこのような問題は生じませんが、現実的にノイズは全周波数に少量含まれると考えるべきなので、何らかの対策が必要となります。

微分要素の欠点を低減する方法

基本の考え方

ここからは、制御器に微分要素を含める必要が出た際に、上記のような悪影響を低減する方法について紹介します。

微分要素は過渡特性を改善させる一方、高周波のノイズを増幅してしまうのが問題なのでした。

微分要素の特性はありがたいけど、動作周波数以上のノイズ領域では何もしてほしくない…

そこで、「システムの動作周波数では微分要素と同じように働き、高周波のノイズ領域では何もしない要素」を考えることにします。

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代表例

これを実現するための方法は様々ありますが、簡単な例として次のものが挙げられます。

$$G(s)=\frac{s}{Ts+1}$$

$T$は定数です。例として、$T=1$としたときのボード線図を見てみましょう。

低周波領域では微分要素と同じように働き、その他の領域では何もしないボード線図の例

周波数が低めの領域では微分要素と同じ性質を持ち、それが高周波領域に行くに連れてゲインが0dB、位相が0°に向かっていますね。

ゲイン0dB、位相0°は「入力信号に何もせずそのまま出力する」ということなので、まさにこれが「動作周波数では微分要素と同じように働き、高周波のノイズ領域では何もしない要素」として使えることが分かります。性能が切り替わる周波数は、$T$の値で調整可能というわけですね。

さらにこの要素、分母分子の$s$の次数が共に1なので、プロパーなシステムであることも大きなポイントです。つまり、「微分要素は現実世界で実現不可能」というもう1つの問題も解決できてしまうため、実用性が非常に高いことが分かりますね。

ボード線図の導出

ちなみに上で示したボード線図は、次のように考えることで導出できます。ボード線図や制御器設計の理解が深まりますので、余裕があれば抑えておいて下さい。

まず、伝達関数を次の2つに分割して考えます。

$$G(s)= \ubg{\frac{1}{Ts+1}}{G_1(s)} \cdot \ubg{s\vphantom{\frac{1}{Ts+1}}}{G_2(s)}$$

$G_1(s)$は1次システムで、$G_2(s)$は微分要素そのままですね。そしてそれぞれのボード線図を足し合わせましょう。$T=1$の場合を下図に示します。

個別の構成要素のボード線図を足し合わせることで、全体の「動作周波数では微分要素と同じように働き、高周波のノイズ領域では何もしない要素」のボード線図を導出できる

10[rad/s]以上の領域では、微分要素$G_2(s)$の性質が$G_1(s)$によって綺麗に打ち消されていることが分かりますね。

これは、下図のように「高周波ノイズを1次システム$G_1(s)$でまずカットして、その後に微分要素を作用させる」という操作に等しいとも解釈できます。

まず微分要素で増幅されては困る高周波ノイズを1次システムでカットして、その後に微分要素を作用させるブロック線図

以上、微分要素の周波数特性・ボード線図・実用上のポイントについての解説でした。

このページのまとめ
  • 微分要素は「信号の低周波成分は減衰させ、高周波成分は増幅させる」という性質を持つ
  • 厳密な実現が不可能なので、現実には「微分にほぼ等しい要素」で代用する
  • システムの過渡特性を改善するために付加されることが多い
  • 高周波ノイズを増幅してしまうことに注意が必要

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