安定余裕とは?ゲイン余裕・位相余裕の求め方とイメージを解説!

FBシステムの内部安定性

このページでは、安定余裕(ゲイン余裕・位相余裕)について、その意味と直感的イメージを解説します。また、ベクトル軌跡やボード線図から安定余裕を読み取る方法についても、詳しく解説します。

このページのまとめ
  • 安定余裕は「フィードバック制御システムが内部安定だとしたときに、それがどれくらい安定であるか」を示す指標
  • 安定余裕からは「数式モデルの誤差がどれほどまでなら許容されるか」が分かる
  • ゲイン余裕は「ゲイン何倍相当の誤差までなら許容されるか」を表す
  • 位相余裕は「位相何度相当の誤差までなら許容されるか」を表す

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安定余裕とは

安定余裕とは、「フィードバック制御システムが安定(内部安定)だとしたときに、それがどれくらい安定であるかを示す指標」です。詳しい説明の前に、まずはざっくりとしたイメージについて解説していきましょう。

安定余裕は、フィードバック制御システムの内部安定性を判別する、ナイキストの安定判別法を応用することで得られる概念です。

ナイキストの安定判別法は、次のようなものでしたね。

次のブロック線図で表される、開ループ伝達関数が安定なフィードバック制御システムにおいて、

外乱を含むフィードバック制御システムのブロック線図
  1. 開ループ伝達関数のベクトル軌跡$C(j\omega)P(j\omega)$を描き、
  2. それが点(-1,0)を左に見ながら原点に向かえば、システムは内部安定
簡略化されたナイキストの安定判別法のイメージ図

超ざっくり言うと、開ループ伝達関数のベクトル軌跡が点(-1,0)を境に左側にあれば不安定で、右側にあれば安定であるというわけですね。

※以降、表記をシンプルにするために「フィードバック制御システムの開ループ伝達関数のベクトル軌跡」のことを単に「ベクトル軌跡」と記載します。

ただし、実用上は数式モデルに誤差が含まれるため、注意が必要です。当然、誤差があればそれに応じて軌跡もズレてしまいますよね。

数式モデルに誤差があれば、ベクトル軌跡もズレる。ズレた結果ベクトル軌跡が点(-1,0)を跨げばシステムは不安定になってしまう。

たとえ数式上はシステムが安定であっても、誤差によってベクトル軌跡が点(-1,0)を跨いでしまえば、現実には不安定になってしまいます。

このため、実用上はベクトル軌跡と点(-1,0)の間に、誤差によって多少ズレても問題ないくらいの余裕が必要となります。

余裕を持ってベクトル軌跡と点(-1,0)の間を離しておく

この余裕の大きさを、「ベクトル軌跡と点(-1,0)との近さ」によって表したものが安定余裕です。

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ベクトル軌跡上の安定余裕

で、この「ベクトル軌跡と点(-1,0)との近さ」をどう表現するかですが、実用上はゲイン余裕・位相余裕という指標が使われることがほとんどです。

ゲイン余裕・位相余裕は、次のように表されます。

  • ゲイン余裕:位相そのままでゲインをあと何倍すると軌跡が点(-1,0)に触れるか
  • 位相余裕:ゲインそのままで位相があと何度遅れると軌跡が点(-1,0)に触れるか

これらは、ベクトル軌跡から次のように読み取ることができます。

ベクトル軌跡上のココの距離を倍率換算したのがゲイン余裕。ココの角度が位相余裕

これらについて、詳しく説明していきましょう。

ベクトル軌跡上のゲイン余裕

まずはゲイン余裕、つまり「位相そのままでゲインをあと何倍すると軌跡が点(-1,0)に触れるか」について考えます。

もし、システムの位相がそのままでゲインが$K$倍された場合、そのベクトル軌跡は原点を中心に$K$倍拡大(or縮小)されるのでした。

もしシステム全体(のゲイン)がK倍された場合、そのベクトル軌跡は原点を中心にK倍拡大(縮小)される例

上図の通り、ゲインを$K$倍すると横軸との接点$\alpha$も$K$倍され、$K\alpha$となっていますね。

この点が-1に触れると安定性が崩れるため、ゲイン余裕は次式で計算できることになります。

あと何倍で(-1,0)に触れる?

$$ゲイン余裕=\frac{1}{|\alpha|}\ [倍]$$

$\alpha$は負の数なので、点(-1,0)との距離だけを考えるために絶対値が付いています。

ちなみに、下図のようにベクトル軌跡が負の領域で横軸と交わらない場合は、ゲインを何倍しても点(-1,0)に届くことはないので、ゲイン余裕は無限大ということになります。

例えば1次系のベクトル軌跡は何倍しても(-1,0)とは無関係
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ベクトル軌跡上の位相余裕

続いては位相余裕、つまり「ゲインそのままで位相があと何度遅れると軌跡が点(-1,0)に触れるか」について考えましょう。

もし、システムのゲインがそのままでシステム全体の位相が$\theta$[°]遅れた場合、そのベクトル軌跡は原点を中心に$\theta$[°]だけ回転するのでした。

もしシステム全体の位相がθ[rad]遅れた場合、そのベクトル軌跡は原点を中心にθ[rad]だけ回転する例

回転した結果、ベクトル軌跡が点(-1,0)に触れると安定性が崩れるため、位相余裕は下図の$\phi$で求められることになります。

ベクトル軌跡中の位相余裕。これだけ回したら、(-1,0)に触れる

※位相余裕の単位には、[°]の他に[rad]が使われることもあります。どちらも上記$\phi$の角度を表しているだけで、本質的には同じものです。

ちなみに下図のように、ベクトル軌跡が「原点からの距離が1の点」を持たない場合は、位相がどれだけ変化しても点(-1,0)に届くことはないので、位相余裕は無限大ということになります。

どれだけ回転しても(-1,0)とは無関係

ボード線図上の安定余裕

上記と同じ考えで、ゲイン余裕・位相余裕をボード線図から読み取ることも可能です。実用上はベクトル軌跡よりもボード線図を用いることのほうが非常に多いため、ボード線図での読み方もしっかり抑えておきましょう。

具体的には、ゲイン余裕・位相余裕は、開ループ伝達関数$C(s)P(s)$のボード線図上で次のように読み取ることが可能です。

開ループ伝達関数のボード線図上における、ゲイン余裕と位相余裕

安定余裕(とその元になるナイキストの安定判別法)は、システムの開ループ伝達関数のベクトル軌跡によるものだったので、ボード線図も開ループ伝達関数のものを見ることに注意してください。

ここからは、ゲイン余裕・位相余裕が上記のように読み取れる理由について、解説していきましょう。

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ボード線図上のゲイン余裕

ゲイン余裕は、ベクトル軌跡上で「位相そのままでゲインをあと何倍すると軌跡が点(-1,0)に触れるか」を読み取ることで分かるのでした。

ベクトル軌跡上で、位相そのままでゲインを何倍したら点(-1,0)に触れる?

ベクトル軌跡上の点(-1,0)は、ボード線図上で「ゲイン0dB(=1倍)、位相-180°となる点」に相当します。よって「ベクトル軌跡上で点(-1,0)に触れる」ということは、「ボード線図上でゲイン0dB・位相-180°の点に触れる」ということに等しくなります。

このことから、ボード線図上でのゲイン余裕は、下図のように「位相が-180°となる周波数にて、ゲインをあと何dB上げると線が0dBに触れるか」によって読み取れることになります。

ボード線図上で、位相そのままでゲインを何dB上げたら、ゲイン0dB・位相-180°の点に触れる?

が、ベクトル軌跡とボード線図で同じ点を意味していることを確認してみてください。

ちなみに「位相が-180°となる周波数」は、位相交差周波数とも呼ばれます。

※ボード線図ではゲインの倍率がデシベル値で表されるため、読み取られるゲイン余裕の単位も[dB]となります。デシベル値と倍率の関係性については、先ほど紹介したボード線図のページをご覧ください。

なお、位相交差周波数にてゲインが0dBを通り過ぎてしまっている(上回る)場合、これはベクトル軌跡が点(-1,0)を右にみることに相当しますので、そもそもシステムは不安定であることになります。

位相-180°でゲインが0dB以上。ということは、ベクトル軌跡が点(-1,0)を右に見る。ということは、システムは不安定

の位置関係が、さっきの図とちょうど反対になっているのがポイントです。

また、ボード線図上で位相が-180°となる点がない(=位相交差周波数がない)場合、これはベクトル軌跡が負の領域で横軸と交わらないことに相当しますので、ゲイン余裕は無限大ということになります。

位相が-180°にならない。ということは、ベクトル軌跡が負の領域で横軸と交わらない。ということは、ゲイン余裕は無限大
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ボード線図上の位相余裕

位相余裕は、ベクトル軌跡上で「ゲインそのままで位相があと何度遅れると軌跡が点(-1,0)に触れるか」を読み取ることで分かるのでした。

ベクトル軌跡上で、ゲインそのままで位相が何度遅れたら点(-1,0)に触れる?

また、「ベクトル軌跡上の点(-1,0)」は「ボード線図上でゲイン0dB・位相-180°の点」に対応するのでしたね。

これらを踏まえると、ボード線図上での位相余裕は、「ゲイン0dBとなる周波数にて、位相があと何度遅れると線が-180°に触れるか」によって読み取れることになります。

ボード線図上で、ゲインそのままで位相が何度遅れたら、ゲイン0dB・位相-180°の点に触れる?

こちらも、がベクトル軌跡とボード線図で同じ点を意味しているので、比べてみてください。

ちなみに「ゲインが0dBになる周波数」は、ゲイン交差周波数とも呼ばれます。

なお、ゲイン交差周波数にて位相が-180°を通り過ぎてしまっている(下回る)場合、これはベクトル軌跡が点(-1,0)を右に見ることに相当しますので、そもそもシステムは不安定であることになります。

ゲイン0dBで位相が-180°以下。ということは、ベクトル軌跡が(-1,0)を右に見る。ということは、システムは不安定

また、ボード線図上でゲインが0dBになる点がない(=ゲイン交差周波数がない)場合、これはベクトル軌跡が「原点からの距離が1の点」を持たないことに相当しますので、位相余裕は無限大ということになります。

ゲインが0dBにならない。ということは、ベクトル軌跡が原点距離1の点を持たない。ということは、位相余裕は無限大
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安定余裕のイメージ

ほーん。

とりあえず安定余裕を読み取れるようにはなったけど、読み取った値をどう解釈すればいいのかイマイチ分からないなぁ…

ここからは、安定余裕の物理的な意味を考えることで、直感的イメージを深めていきましょう。

そもそもなぜ安定性に余裕が必要かというと、数式モデルに誤差が含まれるためでしたね。

逆に考えると、安定余裕は「どれほどの誤差までなら、システムが内部安定性を保っていられるか」を示す指標であるとも解釈できます。

ここまでならズレてもOK!

ここからは、ゲイン余裕・位相余裕がどのような誤差を表しているのかを、具体的に説明していきましょう。

※安定余裕で用いるのは開ループ伝達関数であったので、ここで言う「誤差」は「開ループ伝達関数の誤差」を意味します

ゲイン余裕のイメージ

繰り返しになりますが、ゲイン余裕は「位相そのままでゲインをあと何倍できるか」でしたね。

「位相そのままでゲインを定数倍する」という操作は、数式上は「数式モデルに定数ゲインをかける」という操作に等しくなります。

開ループシステムG(s)に定数ゲインKをかけると全体はKG(s)となるので、開ループシステムのゲインをK倍したことに等しくなる

よって、ゲイン余裕は「数式モデル何倍相当の誤差までなら、システムが内部安定性を保っていられるか」であるとイメージすればOKです。

例えばゲイン余裕が$M_G$倍であれば、「開ループ伝達関数が$M_G$倍されるレベルの誤差までなら許容される」ということになりますね。

システム「誤差でちょっと大きくなっちゃった。でもゲイン余裕の範囲内だからセーフ!」
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位相余裕のイメージ

位相余裕は、「ゲインそのままで位相があと何度遅れられるか」でした。

よって先ほどと同様に考えると、位相余裕は「位相遅れ何度相当の誤差までなら、システムが内部安定性を保っていられるか」であるとイメージできます。

例えば位相余裕が$M_\phi$[°]であれば、「開ループシステムの位相が一律に$M_\phi$[°]遅れるレベルの誤差までなら許容される」というわけですね。

システム「誤差でちょっとトロくなっちゃった。でも位相余裕の範囲内だからセーフ!」

とはいえ、「位相が$M_\phi$[°]遅れる」と言われても、遅れ量を直感的にイメージしにくいですよね。なので、遅れ量の単位を[秒]に変換してみましょう。

位相は「信号の波1個分の長さを360°としたときに、信号のズレが何度分になるか」を表すものでした。よって例えば$M_\phi$[°]の位相遅れは、次式で[秒]に変換できることになります。

$$位相M_\phi[°]に相当する遅れ量=\frac{2\pi}{\omega}\cdot\frac{\phi}{360}\ [秒]$$

例えばゲイン交差周波数$\omega_G$の信号に対して許容される遅れは、次式で求められるわけですね。

$$\omega_Gに対して許容される遅れ量=\frac{2\pi}{\omega_G}\cdot\frac{\phi}{360}\ [秒]$$

ゲイン交差周波数は「ゲインが0dBになる周波数」であったので、「開ループシステムがギリギリ信号を減衰させずについていけるスピード」を表していることになります。

よって上式は、「システムにとってシビアなスピードでどれだけの遅れが許されるか」という(ちょっとは)直感的に分かりやすい1つの指標として使えることになります。

ボード線図上でゲイン交差周波数にある点「ギリギリです!余裕これだけです!」
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安定余裕の適正値

ほーん。

で、結局ゲイン余裕と位相余裕はどれくらいあればOKなの?

安定余裕の適正値は、制御目的・数式モデルの精度・システムの性質などに応じて大きく変わります。

よって「これだけあればOK」という絶対的な値はなく、対象システムに応じてケースバイケースで判断する必要があります。

とはいえ大体のイメージは持っておきたいと思うので、教科書などでよく挙げられている参考値を紹介しておきましょう。

制御の種類ゲイン余裕位相余裕
定値制御3~10dB(約1.4~3.2倍)20°以上
追従制御10~20dB(約3.2~10倍)40~60°以上
目標値が一定なのが定値制御。目標値が変動するのが追従制御

例えば定値制御の場合は、ゲイン余裕が2,3倍レベルなので、「ゲイン2,3倍レベルの誤差に対して安定性を保てればOK」ということになります。

一方の追従制御では、ゲイン2,3倍程度の余裕では不十分であることが分かります。激しい目標値変化に対応するために、さらに大きな余裕が必要というわけですね。

繰り返しになりますが、これらはあくまで参考値です。

一般的に安定余裕を大きく取ると、入力をパワフルに使った攻めの制御ではなく、なるべく危ないことはしないように入力を絞る守りの制御になりがちです。よって、上の参考値を律儀に守っていると、制御が保守的になりすぎて、制御性能が犠牲になることも多々あるでしょう。

余裕を持ちすぎるあまり、法定速度40km/hなのに10km/hでトロトロと走る車の図

自身のシステムがどれくらいの安定余裕を持つべきなのかは、制御目的・数式モデルの精度・システムの性質などに基づいて個別に検討するようにしましょう。

以上、安定余裕の意味・直感的イメージ・読み取り方についての解説でした。

このページのまとめ
  • 安定余裕は「フィードバック制御システムが内部安定だとしたときに、それがどれくらい安定であるか」を示す指標
  • 安定余裕からは「数式モデルの誤差がどれほどまでなら許容されるか」が分かる
  • ゲイン余裕は「ゲイン何倍相当の誤差までなら許容されるか」を表す
  • 位相余裕は「位相何度相当の誤差までなら許容されるか」を表す

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