零点の正体。極零相殺・不安定零点・逆振れをこれでマスター!

極・零点と安定性

システムの零点は極以上にイメージしにくいパラメータですが、多くの重要な性質を持っています。

このページでは零点の正体を解明し、直感的な意味について解説します。また、極零相殺・不安定零点・逆振れについても解説します。

このページのまとめ
  • 零点がある極に近ければ近いほど、その極の影響が大きく打ち消される
  • 零点がある極に一致すると、その極の影響が完全になくなる
  • 不安定極を零点で打ち消そうとしてはダメ(不安定な極零相殺)
  • 不安定零点は基本的にシステムに悪影響を及ぼすので、持たないほうが良い
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零点の正体は「極打消し機」だ!

例題を通じて、零点の正体を解明してみましょう。簡単な例として、次のような2次システムを考えてみます。

$$Y(s)=\ubg{\frac{s-z}{(s-p_1)(s-p_2)}}{伝達関数G(s)}U(s)$$

システムの極は$p_1$と$p_2$、零点は$z$ですね。

上式の$G(s)$は、零点を持つ厳密にプロパーな伝達関数の最小単位なので、零点付き2次遅れ要素と呼ばれることもあります。実用上よく現れるものなので、これの性質を抑えておくと応用の幅がグッと広がりますよ!

※「厳密にプロパーな伝達関数」とは「分子の次数<分母の次数」を満たす伝達関数のことです。制御工学で扱う伝達関数のほとんどは厳密にプロパーです。詳しくはこちらのページをご覧ください。

零点が極に等しい場合

まず、$z=p_1$である場合の作用を考えましょう。このとき、伝達関数は次のように変形されます。

$$G(s)=\frac{s-z}{(s-p_1)(s-p_2)}=\frac{s-p_1}{(s-p_1)(s-p_2)}=\frac{1}{s-p_2} \quad \color{green}{p_1が消えた!}$$

分子と分母が約分され、極$p_1$が伝達関数から消えてしまいましたね。このことから、端的に言うと零点は極の影響を打ち消す「極打消し機」であるといえます。

$z=p_2$の場合も同様に、極$p_2$が消えますね。よって、1つの零点で打ち消せる極は1つだけであると分かります。

零点と極が異なる場合

零点と極が異なる場合は、どのように作用するでしょうか?これを確かめるため、伝達関数を変形してみます。

$$G(s)=\frac{s-z}{(s-p_1)(s-p_2)}=\ \cdots \ = \frac{p_1-z}{p_1-p_2}\cdot \ubg{\frac{1}{s-p_1}}{p_1のモード}-\frac{p_2-z}{p_1-p_2}\cdot \ubg{\frac{1}{s-p_2}}{p_2のモード}$$

途中の式変形は飛ばしましたが、結局極$p_1$のモードの係数として$p_1$と$z$の差$(p_1-z)$が、極$p_2$のモードの係数として$p_2$と$z$の差$(p_2-z)$が作用していますね。

以上から、零点は次のように伝達関数に作用することが分かります。

  • 零点がある極に近ければ近いほど、その極の影響が大きく打ち消される
  • 零点がある極に一致すると、その極の影響が完全になくなる

※「極$p$のモード」は「極$p$が作り出す動作の成分」だと思ってください。モードについてはこちらのページで解説していますので、合わせてご覧ください。

細かいことを言うと、上記$\frac{1}{s-p}$は伝達関数の一部であり、実際の動作(出力)ではありません。よって、厳密には「$p$のモード」ではなく「伝達関数の中で$p$のモードを作り出す成分」ですが、簡単のため本ページでは「$p$のモード」と表記しています。

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不安定な極零相殺

上記より、零点によって極の影響を打ち消せることが分かりました。

ふーん。じゃあもし制御対象が不安定でも、制御器の零点で不安定極を打ち消せばシステム全体を安定化できるんだな。

極零相殺のブロック線図

と思うかもしれません。理論上はその通りですが、これは絶対に避けるべきです。このように不安定極と不安定零点が打ち消し合うことは不安定な極零相殺と呼ばれ、非常に危険であるとされています。この理由を説明していきましょう。

※実部が0以上である極と零点のことを、それぞれ不安定極・不安定零点と呼びます。不安定極は出力を無限大に発散させる作用を持つため、システムを不安定にしてしまいます。詳細は、先ほど紹介した極のページをご覧ください。

当然ですが、上図のように零点で極を打ち消すためには、零点と極が完全に同じでなくてはなりません。しかし、数式モデルには必ず誤差があるため、現実に極と零点が完全に一致することはまずありえません

不安定極$p_1$と零点$z$が非常に小さな差$(p_1-z)$を持つ場合、何が起こるのかを見てみましょう。先程と同様に伝達関数を変形し、各モードを確認します。

$$G(s)=\frac{s-z}{(s-p_1)(s-p_2)}= \ubg{\frac{p_1-z}{p_1-p_2}}{超小さい数}\cdot \ubgd{\frac{1}{s-p_1}}{不安定モード}{→\inftyに発散}-\frac{p_2-z}{p_1-p_2}\cdot \ubgd{\frac{1}{s-p_2}}{安定モード}{→0に収束}$$

確かに不安定極$p_1$のモードには非常に小さな数$(p_1-z)$がかかります。しかし$p_1$のモードは時間とともに無限大に発散するので、小さな数をかけたところで発散を食い止めることはできません。よって零点によって不安定極を打ち消し、システムを安定化させることは、現実的には不可能です。

悪いことはこれだけではありません。不安定極を打ち消すためには不安定零点が必要ですが、この不安定零点は、次の節で説明するようにシステムに悪影響を及ぼします。よって不安定極のデメリットを打ち消すどころか、さらなるデメリットを付加してしまうと言えます。

以上のように、不安定な極零相殺は「悪者同士が手を組んでお互いの存在を隠している」ような状態であるため、意図的に起こさせないのはもちろん、意図せず生じていないかも注意深く確認が必要です。

極零相殺のイメージ

ちなみに、安定極と安定零点の相殺は何の問題もありません。もともと無害なので、打ち消し合おうが残ろうが構わないというわけですね。

不安定零点はなぜ悪い?

ステップ応答にオーバーシュート・アンダーシュートが生じる

不安定零点は、ステップ応答にオーバーシュートやアンダーシュート(逆振れ)を引き起こすことが知られています。

オーバーシュートとアンダーシュート

具体的には、プロパーなシステム$G(s)$のステップ応答に対して、次のように影響を与えます。

  • $G(s)-G(0)$が実数の不安定零点を1つでも持つと、ステップ応答にオーバーシュートが生じる
  • $G(s)$が実数の不安定零点を1つでも持つと、ステップ応答にアンダーシュートが生じる
  • $G(s)-G(\infty)$(厳密にプロパーなシステムなら$G(s)$)が実数の不安定零点を奇数個持つと、ステップ応答に初期アンダーシュートが生じる

証明は省略しますが、とにかく不安定零点を持つメリットはなさそうですね。

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逆システムが不安定になる

もう1つ、不安定零点を直感的にイメージできる例を紹介します。

伝達関数を逆算して、希望の出力軌道を実現するフィードフォワード入力を計算することを考えましょう。当然、逆システム(伝達関数の逆関数)を考えればOKですね。

伝達関数を逆算してフィードフォワード入力を計算

逆システムは次式で得られます。

$$元システムG(s)=\frac{零点に関する部分}{極に関する部分}, \qquad 逆システムG^{-1}(s)=\usg{\frac{極に関する部分}{零点に関する部分}}{上下反転!}$$

ここで注目したいのは、逆システム$G^{-1}(s)$の極は元システムの零点であるという点です。つまり、元システムが不安定零点を持つと逆システムは不安定となります

不安定なシステムは、適切に入力を与えないと出力が無限大に発散するシステムでした。よって不安定な逆システムを用いて入力を逆算すると、無限大の入力が必要となるケースが多発します。一言でいうと、大抵の出力軌道は実現不可能になってしまうということですね。

不安定な零点をもつシステムは、出力を一定に保つために無限大の入力が必要

当然、適切に出力軌道を与えれば発散しない入力が求まりますが、その設計難度は格段に上がります。不安定なシステムを制御するのが難しいのと同じですね。この意味でも、不安定零点はシステムに悪影響を及ぼすといえるでしょう。

以上、零点の正体と直感的な意味の解説でした。零点を持つシステムを取り扱う際は、上記イメージを思い出してくださいね!

このページのまとめ
  • 零点がある極に近ければ近いほど、その極の影響が大きく打ち消される
  • 零点がある極に一致すると、その極の影響が完全になくなる
  • 不安定極を零点で打ち消そうとしてはダメ(不安定な極零相殺)
  • 不安定零点は基本的にシステムに悪影響を及ぼすので、持たないほうが良い

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