このページでは、制御を考える上で非常に重要な、システムの安定性について解説します。特に、数式上の定義ではなく「安定であるとは結局なんなのか」というイメージについて詳しく説明します。
- 安定なシステムは、放っておいたら平衡状態に収束する(だいたい止まる)
- 不安定なシステムは、放っておいたら発散(暴走)する
- 安定性は、制御システムに求められる最も基本的で重要な性質
- 安定性には色々な種類があるが、本質的なイメージはだいたい同じと考えてOK
安定性のイメージ
後述の通り、安定性にはさまざまな種類がありますが、まずは制御の基礎理論で扱う分類と基本イメージを見ていきましょう。
安定なシステム
安定なシステムとは「何も入力せずに放っておいたら、信号(出力や状態)が収束するシステム」のことです。

「信号が収束する」というのを物理的に解釈すると、「システムが何らかの平衡状態に収束する」となります。
現実のシステムではほとんどの場合「停止」という状態に収束するので、乱暴ですが直感的には「何もせずに放っておいたら止まるシステム」とイメージしても大丈夫です(あくまで最初の一歩として)。
※システムは最初に平衡状態には無いとします。例えば「止まっているシステムを放っておいたら止まったままだ!」というケースは考えません。以降、「システムが動作をしている途中で放っておく」イメージで読み進めてください。
不安定なシステム
不安定なシステムとは「何も入力せずに放っておいたら、信号が発散するシステム」のことです。

直感的には「何もせずに放っておいたら、暴走するシステム」と考えると分かりやすいでしょう。
もちろん暴走しては使い物にならないため、安定性はシステムに求められる最も基本的で重要な性質だと言えます。
安定限界
「収束も発散もしないシステム」もあります。「放っておくと持続振動するシステム」です。

このようなシステムは「安定限界にある」と分類されます。
※補足:ここまでの分類は、制御の基礎理論が扱う「線形時不変システム」に対して主に用いられるものです。特に「安定限界」は、線形時不変システム特有の分類であることを留意しておくとよいでしょう。線形時不変システムについては、こちらのページをご覧ください。
安定なシステムの例
マスばね系
ブロックがばねにつながれ、振動している機械システムを考えましょう。

振動しているブロックは、力を与えず放っておいたら摩擦で止まるので、安定なシステムです。
これに限らず、ほとんどの機械システムは単体では安定です。だいたい放っておけば止まりますからね!
ちなみに摩擦や空気抵抗がない場合、ブロックは延々と持続振動するため、安定限界に分類されます。

電気回路
RLC回路のような単純な回路も、スイッチを切れば(=入力を与えなければ)止まるので、安定ですね。

機械システムと同じく、電気システムも単体ではほとんどが安定です。スイッチを切ると止まりますからね。
不安定なシステムの例
ドローン
ドローンは何もせずに放っておくと落ちるので、不安定なシステムです。

地面がないと数式上は無限に落ち続けるので、状態が収束しません。
マイクのハウリング
マイクがスピーカーの音を拾うと、音が無限に増幅されてハウリングしますよね。
何も声を出さなくても(=入力を与えなくても)ハウリングは収まりませんので、不安定なシステムです。

安定性を考えるときの注意点
安定性は「見ているシステムの範囲」によって結果が変わってくるので注意が必要です。
例えば先ほどのドローンは、単体では不安定なシステムでしたが、適切に制御器を設計できれば制御システム全体を安定化できます。

また、マイクのハウリングはシステム全体は不安定でしたが、マイク単体は安定なシステムです。

先ほどのマスばね系も単体では安定でしたが、アホ制御器に繋げば簡単に不安定になります。

以上の通り、安定性を考える時は「今自分がどの範囲を見ているのか」を常に意識してくださいね。
安定性の種類
前述の通り、制御工学における安定性には上記以外にも様々な種類があります。
基本的なイメージとしては、上記の通り「発散しなければ安定」と考えて問題ありませんが、「どのような前提で、どこまでを安定とみなすか」によって細かい分類が変わってきます。様々な条件に対して理論的に安定性を解析するためには、様々な安定性を定義する必要があるわけですね。
以降、代表的な安定性について、そのイメージを(数式上の定義は省略して)簡単に紹介していきます。
※初めて学ぶ際は、流し読みで大丈夫です。
漸近安定性
これまで見てきた、「そのまま放っておいたとき、信号が収束すればOK」というイメージの安定性です。

「発散しない」だけでなく、「収束する」まで要求しているのがポイントです。
制御工学の基礎理論で扱う安定性は、この漸近安定性です。ラウスの安定判別法や、極を用いて判別するやつですね。
※代表的な安定判別法については、こちらのページをご覧ください。
リアプノフ安定性
「そのまま放っておいても、信号が発散しなければOK」というイメージの安定性です。

収束まで要求しないので、漸近安定性と比較すると条件が一段階ゆるくなっていますね。
※より厳密には「平衡状態の近傍にあるシステムが、平衡状態の近くに留まり続ければOK」という安定性です。
例として先ほども見た、摩擦も空気抵抗もなく、延々と振動しているマスばね系を考えましょう。

このシステム、収束していないので漸近安定ではありませんが、発散もしていません。
ただただ振動しているだけのこれを「安定じゃない!ダメだ!」と断じるにはちょっと抵抗がありますよね(ない?)。リアプノフ安定性では、このようなケースも「安定」と扱います。
リアプノフ安定性は、特に非線形制御の分野にてよく用いられます。非線形システムは「ぐるぐる回る挙動」のような、「収束も発散もしない状態」に落ち着くことがあります。このような場合も、リアプノフ安定性を用いれば「暴走していない=安定した挙動」と評価できるわけです。
有界入出力安定性
「有界な入力に対して、出力も有界であるかどうか」を指標とした安定性を、有界入出力安定性と呼びます(Bounded-Input-Bounded-Output安定性、略してBIBO安定性とも呼ばれます)。

簡単に言うと、「無限じゃない入力に対して、出力も無限に吹っ飛ばないならOK」という安定性ですね。
これまでの安定性は「入力を与えずに放っておく」という前提で考えていましたが、有界入出力安定性では入力信号を想定しているので、考える前提が異なっているのもポイントです。
内部安定性
先ほどの有界入出力安定性は、入力と出力の関係性に着目した安定性でした。
これに対し、「入出力だけではなく、システム内部の状態(信号)まで全て考慮に入れる」ということを強調した安定性の呼び方が、内部安定性です。
代表的な例が、古典制御にてフィードバック制御システムの安定性を考える場合です。

このとき、システム全体の入出力関係(目標値$r$に対する制御量$y$の関係)だけでなく、システム内の全ての信号の安定性も考える必要があります。このことを明示する際に、「内部安定性」という言葉が用いられます。
※詳細については、こちらのページをご覧ください
一方、現代制御では常にシステムの内部状態を考慮するので、単に「安定性」と言うだけで暗黙的に「内部安定性」を指すことがほとんどです。
ちなみに「内部がどの意味で安定なのか」は、他の安定性の概念を参照して定義されます(漸近安定やリアプノフ安定など)。
怖がらなくてOK!本質的なイメージはどれも同じ!
この他にも、制御工学の世界には様々な種類の安定性があります。

なんかややこしくて難しいな…
と思うかもしれませんが、大丈夫です!
結局どれも「発散(暴走)させずに使いたい」という目的は一貫しているので、実用上は
- 安定だと発散しない。安心して使える。
- 不安定だと発散する。使えない。
というイメージを持っておけば、ほとんど困りません。

また前述の通り、制御の基礎理論で扱う線形時不変システムに対しては、漸近安定性が適用されることがほとんどです。
特にプロパーなシステムに対しては、それが漸近安定であれば、有界入出力安定であり、リアプノフ安定でもあることが知られています。
※「プロパーなシステム」とは、線形時不変システムの中でも特に扱いやすいシステムのことです。制御工学の教科書にでてくる基本的なシステムは、だいたいプロパーです。詳細はこちらのページをご覧ください。
結局、制御工学の基礎を学習する際は、上記基本イメージを持ちながら「具体的には漸近安定性を考えているんだな」と思っておけばOKというわけですね。

以上、システムの安定性の意味と直感的イメージについての解説でした。
こちらのページではシステムの安定性を判別する方法を解説していますので、合わせてご覧ください!
- 安定なシステムは、放っておいたら平衡状態に収束する(だいたい止まる)
- 不安定なシステムは、放っておいたら発散(暴走)する
- 安定性は、制御システムに求められる最も基本的で重要な性質
- 安定性には色々な種類があるが、本質的なイメージはだいたい同じと考えてOK
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